ダイレクトボンディングによる前歯の審美治療③
ダイレクトボンディング治療による前歯の審美治療の症例
自費のダイレクトボンディング治療によって、前歯の欠けを修復した症例をご紹介致します。
初診時の口腔内
こちらの患者さまは前歯の欠けた部分を治してほしいとの主訴で来院されました。
口腔内を確認すると、右上1の切縁付近が破折し、実質欠損が認められました。かなり小さな破折ですが、患者さまご本人は気にされており、審美障害を呈している状態でした。
治療計画について
保険診療によるコンポジットレジン充填
自費治療によるコンポジットレジン充填(審美充填、ダイレクトボンディング)
ラミネートベニア審美修復
クラウンによる補綴治療
治療方針をご相談しました。
患者さまのご希望は下記の通りです。
- ご自身の歯をなるべく残したい
- 脱離破損のリスクをなるべく低くしたい
- 着色、劣化などで目立たない
患者さまは他の部位に治療してある保険診療でのコンポジットレジン充填の着色も気にされており、今回は着色や劣化がしにくい接着操作を行ってコンポジットレジンを充填する②の治療方針をご選択されました。
歯の修復治療にはMIという概念があり、最近では歯科関係者だけではなく、世間一般的にも浸透しつつあります。MIとはMinimal Interventionの略で『切削介入は最小限にする』という考え方です。 今の時代、歯の修復治療において、できるだけ歯を削る量を少なくするためにどのような治療を行うべきかを念頭に置いて治療を行うことは基本です。
(3)(4)の治療方針は健康な歯を削る量が多くなる治療法です。とくに審美性に優れたオールセラミックスクラウンによるかぶせ物治療は、健全歯質を約60~70%削合するというデータがあります(Edelhoff, 2002)。
ダイレクトボンディングの特徴について
- 強化型プラスチックを歯の表面に直接盛り足す治療法
- 虫歯治療後の詰め物、歯の色や形態、歯並びの乱れなどを改善する場合にも応用可能
メリット
- ダイレクトボンディングは、歯型採りを必要とする治療法よりも歯を削る量を少なくすることが可能
- その日のうちに治療が完了、歯型採りをする必要なし(形態再現が困難な場合は型取りをする必要あり)
- 色調や透明感の再現性に優れているため自然な仕上がり
- 再治療が容易
- 劣化したレジンを削り、新しいレジンを盛り足すことで審美性や機能性を改善可能
デメリット
- 咬み合わせによっては取れやすい
- ダイレクトボンディングは、噛んだときに強く当たる部分には不向き
- 劣化、着色が生じる可能性あり(特に前歯に適応した場合)
- 過剰な負担がかかった場合、脱離の可能性があり
- セラミックの詰め物や被せ物と比較すると、着色、変色や摩耗が起こりやすい
保険コンポジットレジン充填と自費ダイレクトボンディングの違い
保険 | 自費 | |
治療時間 | 30分/1~2箇所 | 60~90分/1箇所 |
使用する色の数 | 単色 | 複数の色を使用した積層充填(マルチレイヤリング) |
色味の適合 | 単色となるため妥協的 | シェードテイキングを行い、複数の色を使用するため審美性が高い |
予後のケア | 機能的に問題がなければ形や色のご不満には対応できない | 形、色について納得いくまでやり直しを行う |
むし歯の除去 | レジン充填と同日に行う | レジン充填と同日、または別日で充填を行う |
治療費 | 保険診療点数に準ずる | 16,500~66,000円/1箇所 |
ラバーダム防湿の実施
表面麻酔を塗布後、浸潤麻酔を行い、ラバーダム防湿を行います。
ラバーダム防湿は、下記のメリットなどがあり、確立された治療方法です。
・口呼吸による湿度の遮断によりレジンの接着を最大限に引き出せる
・舌、唇、頬粘膜の排除することで治療がしやすくなる
・唾液からの隔離
(唾液中には種々の細菌やコンポジットレジンの接着を阻害するたんぱく質等が含まれますが、これらの治療部位への侵入を防ぎます。そこまで厳密に考えなくても良いかもしれませんが、削り終わって→うがいをして、をしてしまうと、削り終わった部分はむし歯になるリスクが高まると考える歯科医師がいることも事実です。)
【防湿について】
巣鴨S歯科矯正歯科では、簡易防湿またはラバーダム防湿を用いてコンポジットレジン充填を行います。保険診療では簡易防湿、自費診療ではラバーダム防湿を行います。(催吐反射、鼻呼吸困難等がある場合は相談のうえ簡易防湿にて対応いたします。)
- ラバーダム防湿
治療部位を口腔内の湿潤環境および唾液に含まれる有機物、血液、細菌から隔離することで、コンポジットレジンの接着力が向上する。 - 簡易防湿(ロールワッテ、排唾管等)
治療部位が口腔内の湿潤環境および唾液に含まれる有機物、血液、細菌から完全に隔離することは不可能となる。コンポジットレジンの接着力を100%引き出せず、修復物の脱離、二次う蝕の原因となる可能性がある。
う蝕検知液の使用
歯垢染色液で治療する部位周囲の歯質表面のプラーク(細菌のかたまり)を染め出します。赤く染まっている部分がプラークが付着している部位となります。プラークが残存してしまうと接着が阻害されてしまうため、エアフローによるパウダークリーニングにより接着阻害因子を徹底的に除去します。
クラック(ヒビ)の修復
拡大視野で確認すると、欠けてしまった歯質周囲のエナメル質にはクラック(ヒビ)が入っていました。クラックが残ったままレジン充填を行ってしまうと接着が不十分になるだけでなく、クラックの部分から二次的にむし歯が進行し再治療の原因となってしまいます。研磨をしながらクラックを取り除きました。
エッチングの実施
レジンの接着力を向上させるために、エナメル質部分に酸処理剤を塗布しセレクティブエッチングを行います。セレクティブエッチングを行った部位はエナメル質が白くなっています。酸処理を行いエナメル質表層を一層だけ溶すとザラザラになり、接着面積が増え、接着力が向上するようなイメージです。(当院では、保険診療のコンポジットレジン充填治療において時間、費用の関係からセレクティブエッチングは行いません。)
※セレクティブエッチング:コンポジットレジンを接着させる歯面のエナメル質に酸処理を先に行い、コンポジットレジンの接着力を向上させる処理法のこと。
ダイレクトボンディングの実施
ボンディング処理を行います。さらさらのレジンを薄く延ばし、糊の役割を果たす操作です。
ボンディング材(コンポジットレジン充填を行う前の接着剤)について巣鴨S歯科矯正歯科では、1液性と2液性のボンディング材を用いてコンポジットレジン充填を行います。
※基本的に保険診療では1液性、自費診療では2液性を使用することが多いです。
2液性
メリット | ・安定した強力な接着力が得られる |
---|---|
デメリット | ・操作が煩雑でテクニカルエラーが生じる可能性あり |
1液性
メリット | ・操作が簡便でテクニカルエラーが少ない ・治療時間の短縮 2液性と比較し接着力が同等程度とのデータあり ・色々な成分が含まれており、歯質だけではなく他の歯科材料と接着させることが可能 |
---|---|
デメリット | ・含有成分が複雑、長期的な結果が安定しないと考える歯科医師あり ・保存期間がある程度過ぎると接着力が低下する報告あり |
ボンディング処理後、コンポジットレジンを充填します。さらに、空気中の酸素に触れているレジン表層部は完全に硬化しないため、エアーバリア材(酸素遮断材)を塗布し光照射を行い完全硬化させます。その後、研磨を行い終了です。
治療完了
コンポジットレジン充填後、研磨して治療完了です。
年齢/性別 | 30代 女性 |
---|---|
治療期間 | 1日 |
治療回数 | 1回(60分) |
治療費 | ダイレクトボンディング 本ケースは1歯16,500円 (費用は16,500円〜66,000円の間で難易度と相談の上、決定いたします。) |
リスクなど | ・経年劣化により脱離、変色する可能性があります。 |