直接覆髄法・保険コンポジットレジンによる虫歯治療の症例
直接覆髄法・保険コンポジットレジンによる虫歯治療の症例
直接覆髄法・保険コンポジットレジンによる虫歯治療の症例をご紹介致します。
初診時の口腔内
レントゲン診査
【赤:左上5番の神経 水色:左上5番遠心のむし歯 青:左上6番近心のむし歯】
レントゲン診査を行うと、左上5番の遠心には歯髄に近接する透過像、左上6番の近心には象牙質に及ぶ透過像が認められました。両歯ともC2(象牙質のむし歯)、虫歯治療の適応と診断しました。患者さまのご希望により、保険診療にて治療をしていきます。
【※遠心:奥歯側 近心:前歯側】
左上5番の治療方針について
むし歯が神経(歯髄)の近くまで進んでいる場合は、むし歯に感染した歯質を取り除いている最中に歯髄が露出(露髄)することがあります。歯髄の状況や症状、露髄した穴の大きさによっては、神経を保存する治療法を選択することができます。
神経に近い部分に歯髄保護の材料・薬を詰めて保護する覆髄法(ふくずいほう)・覆罩法(ふくとうほう)と呼ばれる治療方法です。本症例では、むし歯を取り除いていき、状況に応じて神経を保存するか、抜髄に移行するかを判断させていただくこととしました。
虫歯治療の実施
表面麻酔を十分に塗布し時間を置いて、浸潤麻酔を行います。浸潤麻酔の奏功を確認し、むし歯を取り除いていきます。
左上5番遠心のむし歯を取り除いた穴から、左上6番のむし歯が確認できます。う蝕検知液を使用し、徹底的にむし歯を取り除いていきます。むし歯の部分だけを染色し、健康な歯質は削らずに治療することが可能となります。また、染色される部分だけを削るために様々な形態をした極細の切削器具を使用します。
(左・中)【う蝕検知液で染色 ⇄ むし歯を除去】を繰り返します。最終的にう蝕検知液で染まらなくなるまでう蝕を除去していきます。(右)むし歯を除去し終わったところで、右上5番が点状に露髄しました。
分かりにくいですが、水色で囲んだ部分が点状露髄した部位です。
うっすらと出血が認められましたが、容易に止血を行うことができ歯髄は現時点では正常な状態と判断できたため、直接覆髄法(ちょくせつふくずいほう)を行うこととしました。
直接覆髄法 (ちょくせつふくずいほう)とは?
むし歯の除去中に露髄した場合に行う覆髄処置です。露髄面積が小さく、細菌感染がないものに対して、歯髄保護処置を行い、第三象牙質(修復象牙質)の形成誘導を促します。
【適応】
- むし歯の除去中に起こった露髄
- 細菌感染していないもの
- 露髄面の直径が2㎜以下
ただ、実際には歯髄への細菌感染が生じているかの診断は非常に困難です。術後に歯髄炎の症状が起きてしまった場合は神経の治療を行うこととなります。また、症状がなく神経が死んでしまう(失活)こともあるため、経過観察が必要となります。
治療手順について
①左上6番の近心をCR充填します。(削る量を最小限にしているため、左上5番を先に充填してしまうと、左上6番が充填できなくなってしまうので、先に充填します。)
②左上5番遠心のみをCR充填します。(詰める部位を単純化します)
④残り部分をCR充填行います。
本症例は、ロールワッテを用いた簡易防湿にて、保険適応が認められている材料にて歯髄保護処置、ならびにコンポジットレジン充填まで行いました。歯髄保護処置については、ラバーダム防湿を行い、保険適応外であるMTAセメントを用いると神経を残す成功率が上がります。
CR充填については、1液性のボンディング材と保険適応のコンポジットレジン材料(フロータイプ、ペーストタイプ)を使用し、咬合面形態を付与して充填しました。最後に咬み合わせを確認し、研磨を行い終了です。
防湿について
巣鴨S歯科矯正歯科では、簡易防湿またはラバーダム防湿を用いてコンポジットレジン充填を行います。
保険診療では簡易防湿、自費診療ではラバーダム防湿を行います。(催吐反射、鼻呼吸困難等がある場合は相談のうえ簡易防湿にて対応いたします。)
- ラバーダム防湿
治療部位を口腔内の湿潤環境および唾液に含まれる有機物、血液、細菌から隔離することで、コンポジットレジンの接着力が向上する。 - 簡易防湿(ロールワッテ、排唾管等)
治療部位が口腔内の湿潤環境および唾液に含まれる有機物、血液、細菌から完全に隔離することは不可能となる。コンポジットレジンの接着力を100%引き出せず、修復物の脱離、二次う蝕の原因となる可能性がある。
ボンディング材(コンポジットレジン充填を行う前の接着剤)について
ボンディング材(コンポジットレジン充填を行う前の接着剤)について巣鴨S歯科矯正歯科では、1液性と2液性のボンディング材を用いてコンポジットレジン充填を行います。
※基本的に保険診療では1液性、自費診療では2液性を使用することが多いです。
- 2液性
メリット
安定した強力な接着力が得られる
デメリット
操作が煩雑でテクニカルエラーが生じる可能性あり - 1液性
メリット
操作が簡便でテクニカルエラーが少ない
治療時間の短縮
2液性と比較し接着力が同等程度とのデータあり
色々な成分が含まれており、歯質だけではなく他の歯科材料と接着させることが可能
デメリット
含有成分が複雑、長期的な結果が安定しないと考える歯科医師あり
保存期間がある程度過ぎると接着力が低下する報告あり
治療前後の比較
治療直後はレジン充填の歯の色味(シェード)が馴染んでいないように見えます。術後1ヵ月後の経過観察では、歯髄炎の症状も問題なく快適に過ごせているとのことです。術直後に馴染んでいなかった歯の色味(シェード)も、エナメル質に水分が戻ると写真のように目立たなくなります。引き続き経過観察を行い、神経が生きているかのチェックをしていく予定です。
年齢/性別 | 20代 女性 |
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治療期間 | 1日(45分) |
治療回数 | 1回 |
治療費 | コンポジットレジン充填 保険診療に準ずる |
リスクなど | ・経年劣化により脱離、変色、摩耗する可能性があります。 ・術後に痛みを生じたり、術後の症状によっては歯内療法が必要となる場合があります。 |