部分矯正・ダイレクトボンディングによる審美症例
部分矯正、ダイレクトボンディングによる審美修復の症例
上顎部分矯正治療、ダイレクトボンディング治療を併用して審美障害を改善した症例をご紹介いたします。
初診時の口腔内
前歯の見た目が気になるとの主訴で来院された患者さまです。不正咬合、歯の形態異常による審美障害を悩まれている状況でした。
【問題点】
- 不正咬合、過蓋咬合(上顎前歯が下顎前歯に覆い被さるように位置している。下顎前歯の露出量が少ない)
- 正中離開(右上1、左上1の隙間が空いている)
- 右上2、左上2の形態異常(矮小歯、平均的な歯のサイズよりも小さく、尖った形態をしている)
上記の問題点があると診断し、治療計画を患者さまと相談しました。
治療計画について
歯を何本治療するのか、治療期間はどれくらいかかるのか、歯を削る量がどれくらいか、長期予後は見込めるのか、費用はどれくらいかかるのか。患者さまそれぞれ考え方、大事にしたいポイントなど異なります。治療方法について6つの選択肢が考えられたため、患者さまと相談しました。
△:不正咬合が改善していないため、治療歯に負担がかかる状態(下顎前歯の突き上げ等)であり、長期的な予後が期待できない可能性がある。治療後に破折、脱離等のリスクがある。
○:部分的ではあるが不正咬合が改善することで長期予後が期待でき、治療歯の保護にもつながる。
◎:全顎的に不正咬合が改善することで長期予後が期待でき、治療歯の保護にもつながる。
患者さまはなるべく削らない治療を、そして治療した歯が長持ちする歯並びと咬み合わせを得ることをご希望されました。また、治療期間が長期化するとお仕事の関係から通院が最後まで出来なくなる可能性があることから、治療計画5の『部分矯正治療との併用』で進めることとしました。
上顎部分矯正の実施
マルチブラケット装置を用いたワイヤー矯正を上顎前歯に装着し、矯正治療を進めます。上顎4前歯の圧下、正中離開の改善、上顎両側2矮小歯の位置を調整していきます。
上顎のみの部分矯正治療なので限界がありますが、正中離開の改善ができ、過蓋咬合も可能な範囲で改善ができました。矯正治療により上顎両側1の審美性が改善できたため、修復治療・補綴治療を回避することに成功しました。また、右上2、左上2の矮小歯は、最終的に削らなくて済むよう、下顎前歯との隙間や修復物の厚みを考慮して位置、歯軸を調整します。
スキャロップライン(歯頚線を結んだ波状の線、写真の青線)を左右対称にすると審美性をより高めることできます。
右上2の圧下移動を継続(写真の水色点線あたりまで移動)し、スキャロップラインを平行にするかを患者さまと相談しましたが、患者さまはそこまで気にならないとのことで部分矯正治療は終了とし、矮小歯の治療に移行しました。
矯正治療後の上顎両側2矮小歯の治療計画について
自費治療によるコンポジットレジン充填(審美充填、ダイレクトボンディング)
ラミネートベニア審美修復
クラウンによる補綴治療
治療方針をご相談しました。
患者さまのご希望は下記の通りです。
- ご自身の歯をなるべく残したい
- 脱離破損のリスクをなるべく低くしたい
- 着色、劣化などで目立たないようにしたい
今回は着色や劣化がしにくい接着操作を行ってコンポジットレジン充填を行う(1)の治療方針をご選択されました。
歯の修復治療にはMIという概念があり、最近では歯科関係者だけではなく、世間一般的にも浸透しつつあります。MIとはMinimal Interventionの略で『切削介入は最小限にする』という考え方です。 今の時代、歯の修復治療において、できるだけ歯を削る量を少なくするためにどのような治療を行うべきかを念頭に置いて治療を行うことは基本です。
(3)(4)の治療方針は健康な歯を削る量が多くなる治療法です。とくに審美性に優れたオールセラミックスクラウンによるかぶせ物治療は、健全歯質を約60~70%削合するというデータがあります(Edelhoff, 2002)。
保険コンポジットレジン充填と自費ダイレクトボンディングの違い
保険 | 自費 | |
治療時間 | 30分/1~2箇所 | 60~90分/1箇所 |
使用する色の数 | 単色 | 複数の色を使用した積層充填(マルチレイヤリング) |
色味の適合 | 単色となるため妥協的 | シェードテイキングを行い、複数の色を使用するため審美性が高い |
予後のケア | 機能的に問題がなければ形や色のご不満には対応できない | 形、色について納得いくまでやり直しを行う |
むし歯の除去 | レジン充填と同日に行う | レジン充填と同日、または別日で充填を行う |
治療費 | 保険診療点数に準ずる | 16,500~66,000円/1箇所 |
ダイレクトボンディングの特徴について
- 強化型プラスチックを歯の表面に直接盛り足す治療法
- 虫歯治療後の詰め物、歯の色や形態、歯並びの乱れなどを改善する場合にも応用可能
メリット
- ダイレクトボンディングは、歯型採りを必要とする治療法よりも歯を削る量を少なくすることが可能
- その日のうちに治療が完了、歯型採りをする必要なし(形態再現が困難な場合は型取りをする必要あり)
- 色調や透明感の再現性に優れているため自然な仕上がり
- 再治療が容易
- 劣化したレジンを削り、新しいレジンを盛り足すことで審美性や機能性を改善可能
デメリット
- 咬み合わせによっては取れやすい
- ダイレクトボンディングは、噛んだときに強く当たる部分には不向き
- 劣化、着色、表面滑沢性の低下が生じる可能性あり(特に前歯に適応した場合)→研磨、補修などのメンテナンスを行うことで術直後の状態を維持することが可能
- 過剰な負担がかかった場合、脱離の可能性があり
- セラミックの詰め物や被せ物と比較すると、着色、変色や摩耗が起こりやすい
ダイレクトボンディング治療の前処置
▼ワックスアップ
▼ダイレクトモックアップ
ダイレクトボンディング治療後の歯の形と、治療後に患者さまが求める歯の形が一致しなければいけません。ワックスアップ(模型上で歯の形を再現すること)、ダイレクトモックアップ(模型上で製作した歯の形を口腔内に再現すること)にてデモンストレーションを行い、最終的な歯の形、審美性を患者さまと相談し決定してきます。
▼術前の色合わせ(シェードテイキング)
ラバーダム防湿の実施
表面麻酔を塗布後、浸潤麻酔を行い、ラバーダム防湿を行います。
ラバーダム防湿は、下記のメリットなどがあり、確立された治療方法です。
・口呼吸による湿度の遮断によりレジンの接着を最大限に引き出せる
・舌、唇、頬粘膜の排除することで治療がしやすくなる
・唾液からの隔離
(唾液中には種々の細菌やコンポジットレジンの接着を阻害するたんぱく質等が含まれますが、これらの治療部位への侵入を防ぎます。そこまで厳密に考えなくても良いかもしれませんが、削り終わって→うがいをして、をしてしまうと、削り終わった部分はむし歯になるリスクが高まると考える歯科医師がいることも事実です。)
【防湿について】
巣鴨S歯科矯正歯科では、簡易防湿またはラバーダム防湿を用いてコンポジットレジン充填を行います。保険診療では簡易防湿、自費診療ではラバーダム防湿を行います。(催吐反射、鼻呼吸困難等がある場合は相談のうえ簡易防湿にて対応いたします。)
- ラバーダム防湿
治療部位を口腔内の湿潤環境および唾液に含まれる有機物、血液、細菌から隔離することで、コンポジットレジンの接着力が向上する。 - 簡易防湿(ロールワッテ、排唾管等)
治療部位が口腔内の湿潤環境および唾液に含まれる有機物、血液、細菌から完全に隔離することは不可能となる。コンポジットレジンの接着力を100%引き出せず、修復物の脱離、二次う蝕の原因となる可能性がある。
う蝕検知液の使用
歯垢染色液で治療する部位周囲の歯質表面のプラーク(細菌のかたまり)を染め出します。赤く染まっている部分がプラークが付着している部位となります。プラークが残存してしまうと接着が阻害されてしまうため、エアフローによるパウダークリーニングにより接着阻害因子を徹底的に除去します。
エッチングの実施
レジンの接着力を向上させるために、エナメル質部分に酸処理剤を塗布しセレクティブエッチングを行います。酸処理を行いエナメル質表層を一層だけ溶すとザラザラになり、接着面積が増え、接着力が向上するようなイメージです。(当院では、保険診療のコンポジットレジン充填治療において時間、費用の関係からセレクティブエッチングは行いません。)
※セレクティブエッチング:コンポジットレジンを接着させる歯面のエナメル質に酸処理を先に行い、コンポジットレジンの接着力を向上させる処理法のこと。
ダイレクトボンディングの実施
※画像は別症例です。
ボンディング処理を行います。さらさらのレジンを薄く延ばし、糊の役割を果たす操作です。
ボンディング材(コンポジットレジン充填を行う前の接着剤)について巣鴨S歯科矯正歯科では、1液性と2液性のボンディング材を用いてコンポジットレジン充填を行います。
※基本的に保険診療では1液性、自費診療では2液性を使用することが多いです。
2液性
メリット | ・安定した強力な接着力が得られる |
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デメリット | ・操作が煩雑でテクニカルエラーが生じる可能性あり |
1液性
メリット | ・操作が簡便でテクニカルエラーが少ない ・治療時間の短縮 2液性と比較し接着力が同等程度とのデータあり ・色々な成分が含まれており、歯質だけではなく他の歯科材料と接着させることが可能 |
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デメリット | ・含有成分が複雑、長期的な結果が安定しないと考える歯科医師あり ・保存期間がある程度過ぎると接着力が低下する報告あり |
ダイレクトボンディング術中
ボンディング処理後、コンポジットレジンを充填します。シリコーンコアを利用して、切縁(歯の先端部分)や口蓋側(歯の内側部分)の形態をレジン充填します。
複数色のレジンを使用して、歯の内面や隣接面の形を作ります。
治療完了
▼ダイレクトボンディング術前
▼ダイレクトボンディング術後
治療前後の比較
術前、術後です。患者さまには大変満足いただきました。治療した歯を含めた口腔内全体のメンテナンスと矯正治療後のリテーナーの装着を頑張っていただき、お口の健康状態を保っていくことが今後の目標です。
年齢/性別 | 30代 女性 |
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治療期間 | 11ヵ月 |
治療回数 | 矯正治療 12回 ダイレクトボンディング 1回(180分) |
治療費 | 矯正相談料 0円 検査診断料 55,000円(税込) 部分矯正費用 385,000円(税込) 矯正期間中の診察料 6,600円(税込)/回 (本ケースでは計10回) ダイレクトボンディング 33,000円(税込)/歯 (本ケースでは2歯) リテーナー 22,000円(税込) 計594,000円(税込) |
リスクなど | ・ダイレクトボンディングは経年劣化により脱離、変色する可能性があります。 ・矯正治療の動的治療終了後に移行する保定装置(リテーナー)の装着を怠ると矯正治療後の後戻りが生じる可能性があります。 |