抜く歯はそこじゃない! 矯正便宜抜歯の部位選択
投稿日:2022年8月30日
カテゴリ:矯正ブログ
こんにちは、巣鴨S歯科矯正歯科です。
今回は矯正治療で必要な便宜抜歯の部位についての記事です。
①ガタガタな歯並び「叢生」を改善するために
②どんな時に便宜抜歯を行うの?
③どこの歯を抜くの?
④抜かない方がいい部位は?
⑤当院でよくあるご相談内容
の5つに分けて記載しましたのでぜひお読みください。
①ガタガタな歯並び「叢生」を改善するために
歯列がガタガタになっている原因は
骨格的問題(アゴのサイズが大きい、小さい)
と
歯の問題(歯のサイズが大きい小さい、歯の数が多い少ない)
のつじつまが合っていないことが原因です。
(これを私たちは専門用語で
「アーチレングスディスクレパンシー arch length discrepancy」
と呼んでいます。)
このつじつまを合わせるために、私たちはいろいろな策を駆使して矯正治療を進めます。
小児矯正などで顎を広げたり、歯並びの幅を広げたりすると聞いたことはありませんか?
歯と歯の間を削って歯を並べると聞いたことはありませんか?
そして、
健康な歯を抜歯して矯正治療を進めると聞いたことはありませんか?
歯列弓の拡大や、ディスキング(ストリッピング、IPR)は、
このつじつまを合わせるための治療方法の一つです。
↓ディスキング(ストリッピング、IPR)についてのブログはこちら
歯を削り矯正治療を進める方法、失敗の原因とリスクについて~ディスキング、ストリッピング、IPR~
同様に、
矯正治療で歯を排列していくスペースを確保するため、歯を抜歯することを
便宜抜歯
と呼びます。
②どんな時に便宜抜歯を行うの?
前述した、”アーチレングスディスクレパンシーが大きい場合”に行います。
例えば、
歯の大きさが骨に対してあまりにも大きく、
叢生を改善するためには
歯列弓の拡大、やディスキング(ストリッピング、IPR)による隣接面の削除などでは
困難な場合に、便宜抜歯が適応されます。
便宜抜歯を行い、歯列弓の拡大やディスキング(ストリッピング、IPR)では
確保できないような十分に空いたスペースを利用し、
歯を並べていくという手法をとるわけです。
③どこの歯を抜くの?
矯正で歯を抜く選択をするときは
親知らずを除いて左右対称に2本、または4本など偶数で抜くことが一般的です。
抜く部位としては「小臼歯」を選択することが多いです。
前歯から数えて4番目、あるいは5番目の歯で、
前歯にガタガタが多い場合などは4番目の第一小臼歯が選択されることが多いです。
例外として、
・生まれつき歯がない方(先天性欠如)
・虫歯などで歯を既に抜いてしまっている方(欠損歯)
・過去に感染根管治療を行った歯がある方
・外傷によりダメージを受けている歯がある方
がある場合は、
1本や3本など奇数で抜歯を行なったり、左右非対称に便宜抜歯を行うこともあります。
④抜かない方がいい部位は?
前歯4本(前歯から数えて2番目まで)
前歯の4本は食べ物を噛む際には包丁の役目をしてくれます。
また、前方運動時は下顎前歯の切縁が上顎前歯口蓋側の斜面を滑りながら動きます。
”ガイド”として奥歯を守る役割があります。
さらに、上顎前歯は審美性を決定づけるスタート地点となります。
前歯が適切な形、長さ、位置関係でなければ発音がしづらくなります。
以上のことから、
見た目(審美性)、発音・咀嚼(機能性)の観点から便宜抜歯の部位として通常は選択されません。
犬歯(前歯から数えて三番目)
犬歯は下顎が左右運動をするときのガイドになる役目を持っています。
また、犬歯は歯根が最も長く、一番寿命が長いことが特徴です。
↓犬歯誘導についてのブログはこちら
奥歯が前歯を守り、前歯が奥歯を守る!~安定した咬み合わせ~
八重歯になってしまっていて気にされている方も多いと思いますが、
八重歯だからと言って抜いてしまうと歯並びがきれいになった時にガイドになる歯を失ってしまいますので、なるべく排列することを選択します。
大臼歯(前歯から数えて6~8番目)
大臼歯は咀嚼中に食べ物をすり潰す役目をします。
またグッと噛みしめたりするときに力を発揮し、上下の噛み合わせを支える大切な役割を果たします。
前から数えて6番目の歯=6歳臼歯=第一大臼歯
前から数えて7番目の歯=12歳臼歯=第二大臼歯
前から数えて8番目の歯=親知らず、智歯=第三大臼歯
特に第一大臼歯は別名、”6歳臼歯”とも言われ最初に萌出してくる永久歯です。
顎を動かす咀嚼筋の位置関係・走行と密接な関係があり、
一番咬合力を発揮できる歯とも言われています。
以上のことから、便宜抜歯の部位として選択されることはほとんどありません。
親知らず(智歯)については、
虫歯予防、歯周病予防と矯正治療における歯の遠心移動の観点から、
抜歯を選択することが多くあります。
小臼歯(前歯から数えて4、5番目)
特に、第一小臼歯(前歯から数えて4番目の歯)は
下顎が後方に移動しすぎないようにストッパーの役割を果たします。
下顎が後ろ側に移動しすぎると、
顎関節組織の後方に存在する神経・血管に富んだ組織が圧迫され痛みが生じる可能性がありますが、
第一小臼歯が適切に機能している場合は顎関節症状を防いでいます。
前述した前歯、犬歯、大臼歯は
審美性と機能面・役割から便宜抜歯の部位として選択されることはほとんどありません。
小臼歯ももちろん口腔機能を維持するために大切な役割を持っていますが、
・叢生の程度と各歯牙の位置関係
・骨格や骨の量
・歯の治療歴
・歯根の長さ
・矯正治療の術式と進め方
等を総合的に判断し、
犬歯と大臼歯の間にある4番目、5番目の小臼歯と言われる機能と形がよく似た歯のどちらかを便宜抜歯に選択することが多いことが現実です。
⑤当院でよくあるご相談内容
矯正のご相談を受けていて、時々困ってしまうことがあります。
最近では、
歯科医師国家試験でも顎変形症などの問題で矯正の抜歯部位についての出題が何年かに1回出ることがあるので、
一般歯科を専門とする先生の矯正の抜歯に対する誤解も減ったように思いますが、
・治療方針の説明内容
・提供した治療内容
が矯正医は行わない選択をしてしまっていることをよく実感します。
例1
かかりつけの先生に矯正治療を勧められて相談に来ました、という患者様。
かかりつけの先生に
「ガタガタが多いから歯ブラシがしづらいだろう、
矯正をして歯並びを治せば虫歯も歯周病も予防できるから、矯正をしてみたらいいのではないか。
『まぁ、1本くらい歯を抜くといわれるかもしれないけどね』」
と言われましたが、どのようなことでしょうか?
③どこの歯を抜くの?
で記載させていただきました通り、
矯正で歯を抜く選択をするときは
親知らずを除いて左右対称に2本、または4本など偶数で抜くことが一般的です。
例2
上の前歯が1本完全に内側に入ってしまっていたという患者様「完全に内側に入っていて機能していないし
歯並びが悪く見えてしまうから
この歯を抜いてしまおう、と言われて、
私もその時はあまり深く考えずにすぐに承諾をして
抜歯をしてしまいました」という方。
この状態でも矯正治療は可能でしょうか?
通常は抜歯の選択をしない部位を既に抜歯しているため
当然ですが
治療計画が難しくなり、
状況によっては矯正治療後の結果が、
機能面、審美面ともに満足が得られるものではない結果となる可能性があります。
これらはあくまで一例ですが、どちらも実際によくあるご相談内容です。
審美性、機能面と骨格とのバランスを考えると、矯正医はそのような抜歯は選択しません。
歯は上下の顎でバランスをとりながら
噛む、話すという機能をしており、
また審美的にも上下の真ん中を合わせて、
上下の幅を合わせて、
出っ歯でもなく、
受け口でもなく、
歯並びを構成するためには、
個々だけ1本抜いて何となく並ぶんじゃないか、
ということは出来ないのです。
私たち矯正医は機能や骨格や見た目や歯の寿命などを総合的に判断して抜く歯を決めています。
患者様がよくお話しされる
「歯並びが悪いところの歯を抜いてしまえば手っ取り早く解決するのかな、と思っていました」
という方針が当てはまる症例はゼロに近いと考えます。
矯正相談では生じている問題点や患者様が抱える疑問点等を解消すべく
丁寧にご説明させていただきます。
(生涯自分の歯で過ごすために矯正治療をお勧めいただく先生方、どうか私たち矯正医が適当に抜くと言っているわけではないとご承知おきいただけると助かります。)
「私の歯並びはどうなんだろう」
「歯並びが良くなればいいなと前から思っているけど実際どんなかんじなんだろう」
と思っている方
矯正治療に関するお悩み、ご不明点、ご相談にいらしてください。
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